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京都地方裁判所 平成9年(ワ)2040号 判決 2000年7月06日

京都府相楽郡精華町大字祝園字下久保田一二番地の二

原告

杉森英夫

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

浦田和栄

松本司

辻川正人

岩坪哲

南聡

冨田浩也

酒井紀子

深堀知子

島根県大原郡木次町大字里方一〇九三番地二五

被告

株式会社ヘア・クリエイト

右代表者代表取締役

川本榮子

右訴訟代理人弁護士

原守中

右訴訟復代理人弁護士

須田滋

主文

一  被告は、別紙(一)記載のヘアアイロンを製造し、販売し、販売のために展示してはならない。

二  被告は前項のヘアアイロンを廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金二三三六万二四〇〇円及びこれに対する平成九年七月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

六  この判決の原告勝訴部分は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主文一、二項同旨

二  被告は、原告に対し、六〇七七万〇四〇〇円及び内金三七七三万〇四〇〇円に対する平成九年七月二一日から、内金一三三八万一六〇〇円に対する平成一〇年一二月一日から、内金九六五万八四〇〇円に対する平成一一年九月二五日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  事案の要旨

本件は、原告が有する特許権に基づく特許発明の実施品である業務用ヘアアイロンについて、原告と被告との間で通常実施権許諾契約を締結していたところ、被告が同契約期間内に製造販売した実施品の実施料の一部を支払わず、かつ、同契約が解除された後にも実施品を製造販売したとして、原告が被告に対し、同契約に基づく実施料未払金の支払、不法行為に基づく損害賠償の支払、実施品である被告製品の製造等の差止及びその廃棄を求めたものである。

二  基礎的事実

以下の事実は、当事者間に争いのない事実、文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によって認定した事実で、争点判断の基礎となるものである。

1  原告の権利

原告は、左記(一)ないし(三)の特許権(以下順に「本件特許権(一)」等といい、包括して「本件特許権」という。また、その発明を順に「本件特許発明(一)」等といい、包括して「本件特許発明」という。)を有している。

(一) 発明の名称 ヒータ駆動制御装置

出願日 昭和五六年一二月一一日(特願昭五六―二〇〇六五一号)

登録日 平成三年一二月二〇日

登録番号 一六三〇〇九二号

特許請求の範囲

「1 ヒータと制御端子付スイッチング素子の直列回路を交流電源端子に接続し、温度センサの測定信号により上記制御端子付スイッチング素子をオン・オフ制御する装置において、上記ヒータに接続されている交流電源端子がコモン端子となる極性の制御回路用直流電源回路と上記交流電源端子間電圧のゼロクロス時を検出してパルス状ゼロクロス信号を出力するゼロクロス信号発生回路と、そのゼロクロス信号発生時のみ上記ヒータへ測定用電流を供給する測定電流供給回路と、その測定電流供給時における上記ヒータの端子電圧とあらかじめ設定された基準電圧を比較しその大小関係に応じて上記制御端子付スイッチング素子をオン・オフ制御する点弧制御回路をそれぞれ設け、上記ヒータが温度センサと兼用するよう構成されたことを特徴とするヒータ駆動制御装置。

2  上記制御端子付スイッチング素子が両方向サイリスタである、特許請求の範囲第1項記載のヒータ駆動制御装置。」(甲一六)

(二) 発明の名称 抵抗温度計

出願日 昭和五七年五月三一日(特願昭五七―九三三〇六号)

登録日 昭和六三年九月二八日

登録番号 一四六〇三八四号

特許請求の範囲

「1 基準抵抗値R0に対し正の誤差NR0をもつ測温抵抗体と補正用抵抗の一端を共通接続してコモン端子とし、上記測温抵抗体の他端に通電用及び測定用の端子を設け、上記補正用抵抗の他端に補正用端子を設けてなる温度センサを用い、上記補正用抵抗と直列接続した測定用抵抗の他端を上記測定用端子と同電位になるよう接続し、上記測定用抵抗の値R1に対し上記補正用抵抗の値がNR1となるようにあらかじめ調節しておき、上記測定用抵抗の両端の電圧を測定することにより上記基準抵抗値R0の両端の電圧と等価な電圧を測定しうるように構成された抵抗温度計。」(甲一七)

(三) 発明の名称 ヒータ駆動制御装置

出願日 昭和五八年六月三〇日(特願昭五八―一二〇〇〇二号)

登録日 平成元年九月二九日

登録番号 一五二〇一〇四号

特許請求の範囲

「1 抵抗温度センサを兼ねるヒータとトライアックの直列回路を交流電源端子に接続し、その交流電源ラインのヒータ側をコモンラインとして直流電源を設け、上記交流電源のゼロクロス時に導通するスイッチングトランジスタのエミッタを上記直流電源の非コモンラインに接続するとともに、そのトランジスタのコレクタから抵抗を通して上記トランジスタがスイッチした時に二個のダイオードの両方に電流が流れる方向に接続し、そのうちの一個のダイオードの他方を上記ヒータと上記トライアックの接続点に接続するとともに、もう一個のダイオードの他方と上記コモンラインの間に負荷インピーダンスを接続し、その負荷インピーダンスとダイオードの接続点から温度検知信号を取り出し、この温度検知信号値と設定値の大小関係により上記トライアックをオンオフ制御するよう構成したことを特徴とするヒータ駆動制御装置。

2  上記スイッチングトランジスタのコレクタからダイオードを通して可変分圧回路を上記コモンラインの間に設け、その分圧点から温度検知用基準電圧を得るように構成した特許請求の範囲第1項記載のヒータ駆動制御装置。」(甲一八)

2  通常実施権許諾契約の締結

原告と被告は、平成四年二月二八日、原告は被告に平成四年四月一日から本件特許権の存続期間満了まで本件特許発明の実施を許諾し、被告は本件特許発明の実施品である業務用ヘアアイロン一個につき八〇〇円の実施料を、販売の日の翌月から起算して三か月後の二〇日限り支払うとの通常実施権許諾契約を締結した(甲四。以下「本件契約」という。)。なお、本件契約四条(5)には、被告が、実施料の支払と同時に、実施料の額に関する計算書を原告に送付すべきことが記載されている(以下「計算書送付条項」という。)。

3  被告の行為

被告は、別紙(一)記載のヘアアイロンを、別紙(二)記載の商品番号と商品名で製造販売(以下、包括して「被告製品」という。)しているが、被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するものである。

4  本訴前後における交渉経過

(一) 被告による実施料支払は、以下のような内容の「書類送附御案内」と題する書面と同書面に記載された金額の手形を送付してなされている(一例である。)(「日理」は株式会社日理の略記)。

(1) 平成四年五月二〇日付(甲八)

直販先六五個、御先巻四個等合計一〇七個

実施料合計八万五六〇〇円

(2) 平成七年一二月一〇日付(甲九)

「手形一通 ¥一九九、二〇〇」とのみ記載

(3) 平成九年六月一〇日付(甲一〇)

日理分一一五個、直販分一四個

実施料合計一〇万三二〇〇円

(4) 平成一〇年一一月一〇日付(甲一一)

日理分六二個、直販分一六個

実施料合計六万二四〇〇円

(5) 平成一一年一〇月一二日付(甲二〇)

日理分二七個、直販分五五個

実施料合計六万五六〇〇円

(二) 原告は、平成六年七月二八日、被告方を訪れ、被告の支払方法は計算書送付条項に反し、また、数量もあまりに少ないとして、帳簿の閲覧を求めたが、容れられなかつた。

(三) 原告は、平成八年七月二日、被告代表者に対し、申入書を発送したところ、同月九日付で、「然るべき調査の上、改めて文書にて御連絡申し上げます。」との回答が送付されたがその後被告側から連絡はなかった。

原告は、同年一二月一三日、被告に対し会見を求めたが、翌年にしてほしいとのことであったため、平成九年一月の予定日を決めたが、原告が右予定日に電話をすると被告は二月に変更するよう求めた。

原告が同年二月三日に被告に電話すると、被告は「今までの経過を調査中であり、今月中にはお会いしたいと思っています。」と回答したが、本訴提起に至るまで連絡しなかった。

5  本件契約の解除

(一) 本訴は、当初、被告製品が平成四年四月一日から五年間に五万八六五六個販売されたとして、本件契約に基づく実施料四六九二万四八〇〇円の支払を求めて提訴されたものである。

(二) 被告は平成一〇年三月一一日の第一回弁論準備手続期日において、被告製品の平成四年四月一日から平成七年一一月(被告前代表者死亡時)までの販売個数はおそらく二万個くらいになるものと思われる旨陳述した。

(三) これを受けて原告は、平成一〇年一一月一三日付内容証明郵便をもって、右二万個から被告において実施料支払済みの一万〇三九七個分を控除した九六〇三個分についての実施料七六八万二四〇〇円を右書面到達後一週間以内に支払うこと、支払なく右期間が経過したときは本件契約を解除する旨の意思表示をし、同書面は平成一〇年一一月一六日被告に到達した(甲一五の1・2。以下「本件解除」という。)。

三  請求の概要

原告は、本件特許権(一)ないし(三)に基づき、被告製品の製造販売、販売のための展示の停止、被告製品の廃棄を求めるとともに、平成一〇年一一月二三日までは本件契約に基づく実施料として、同日以降は実施料相当損害金として、六〇七七万〇四〇〇円(総額六一〇九万五六〇〇円の内金)及び内金三七七三万〇四〇〇円(平成四年四月一日から平成九月三月三一日までの分)に対する平成九年三月分の実施料支払期日の翌日である平成九年七月二一日から、内金一三三八万一六〇〇円(平成九年四月一日から平成一〇年一一月二三日までの分)に対する本件解除の後である平成一〇年一二月一日から、内金九六五万八四〇〇円(平成九年三月三一日までの分一一四万六四〇〇円と平成一〇年一一月二四日から平成一一年九月二四日までの分八八三万七二〇〇円)に対する不法行為後である平成一一年九月二五日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

四  争点

1  本件解除の効力

2  被告製品の販売数量、実施料ないし相当損害金の額

五  争点に関する当事者の主張

1  争点1(本件解除の効力)

【原告の主張】

被告の態度はあまりにも不誠実であり、本件解除が認められるべきことは当然である。

【被告の主張】

(一) 被告は平成一〇年三月一一日弁論準備手続期日において、被告製品の平成四年四月一日から平成七年一一月までの販売個数はおそらく二万個くらいになるものと思われる旨陳述したが、それは原告の主張する販売個数が五万八六五六個と被告の認識とあまりにもかけ離れたものであったため、被告の認識するおおよその推測を述べたものにとどまり、決してその範囲で請求を認容するという趣旨ではない。

(二) 本件は訴訟係属中であり、原告の訴訟外での催告は被告に無理を強いるものであり、本件解除は無効である。

2  争点2(被告製品の販売数量、実施料ないし相当損害金の額)

【原告の主張】

(一) 平成四年四月一日から平成九年三月三一日まで

被告は中外商工株式会社(以下「中外商工」という。)からセラミックヒータを合計五万七五六〇本購入し(甲一三)、被告製品を同数販売した。

したがって、その実施料は四六〇四万八〇〇〇円となる。

なお、右の間被告から一万〇三九七個分、八三一万七六〇〇円の入金があったので、差し引き三七七三万〇四〇〇円となる。

また、このほか、被告は、平成七年一〇月二〇日にテゴー電子株式会社(以下「テゴー電子」という。)からセラミックヒータを一四三三本購入し(甲一九)、業務用ヘアアイロンを同数販売した。

したがって、その実施料は一一四万六四〇〇円となる。

右の小計は三八八七万六八〇〇円である。

(二) 平成九年四月一日から平成一〇年一一月二三日まで

(一)記載の五万八九九三個を基に平均月間販売数を算定し、右期間の月数(一九月)を乗じると、一万八六八一個となる。

そうすると右期間の実施料は一四九四万四八〇〇円となる。

なお、右の間被告から一九五四個分、一五六万三二〇〇円の入金があったので、差し引き一三三八万一六〇〇円となる。

(三) 平成一〇年一一月二四日から平成一一年一一月二四日まで

(二)同様に計算すると、販売個数一万一七九八個、実施料相当損害金九四三万八四〇〇円となる。

なお、右の間被告から六〇万一二〇〇円の支払があったので、右を控除すると、実施料相当損害金は八八三万七二〇〇円となる。

【被告の主張】

(一) セラミックヒータは、ヘアアイロンの毛髪を巻く部分であり、本件特許発明はヘアアイロンの温度を一定に保つ装置であって、被告製品自体においてはいずれも一つの商品の部分であるので、数が一致するが、セラミックヒータの仕入本数と被告製品の販売数が一致するわけではない。その理由は以下のとおりである。

第一に、セラミックヒータは外径、内径、円径の精度にばらつきがあり、中外商工から納入されたもののすべてが使用できるわけではなく、かなりの不良品があり、この分については処分され、被告製品として出荷される個数に含まれることはない。

第二に、セラミックヒータは、被告の新製品の開発、試作に多用しており、社内における費消がかなりの量に及んでいる。

第三に、セラミックヒータは割れやすいため、出荷済み被告製品の修理にも使用されている。

第四に、仕入数と出荷数は在庫の関係でも一致するものではなく、現に、平成一〇年八月末現在におけるセラミックヒータの在庫は、原材料一万二三五四本、仕掛品六一七三本、商品二五〇九本、不良品二四九四本の合計二万三五三〇本であり、加えて一、二年前にも不良品約一五〇〇本を廃棄処分しており、これら不良品処分数は、それ以前の廃棄処分も加えると、実数は把握できない。

第五に、被告が中外商工から仕入れているのは、セラミックヒータ(ロッド)と、セラミックの管(これは本件特許発明と無関係である。)であり、これを区別せずに計算するのは妥当でない。

(二) 甲一三中、平成四年度分の中外商工の被告へのセラミックヒータ納入数一万三〇〇〇本とあるは、一万二〇〇〇本の誤りである。

また、甲一九中平成七年一〇月二〇日の欄にテゴー電子からTK―四他ヒータを仕入れたかのような記載があるのは、中外商工の誤り(記載ミス)である(テゴー電子はヒータを製造販売していない。)。

(三) 被告製品の販売個数(平成八年一月一五日締め分から平成九年二月二八日締め分まで)は、乙一ないし三一(いずれも枝番を含む。以下同じ)により、一九二七個である。

なお、これに韓国への輸出分は含まれていないが、韓国輸出分については、廉価でなければ売れないこと、将来の販売のためには採算を度外視して販売する必要があることから、原告と被告の協議で、実施料を要しないものとされた。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件解除の効力)について

被告は、本件解除は訴訟係属中になされたものであって、被告に無理を強いるもので無効であると主張するところ、その趣旨は明確ではないものの、訴訟によって法律関係の確定を求めている以上、それが確定しない間に履行させることは係争にかかる事実を認めさせることになり、困難を強いるものであるというにあると解することができる。

しかし、訴訟係属中の法律関係について一般に解除ができないとの法理はないし、本件の場合、被告は、本件契約条項を遵守して正しい製造販売数を記帳し、計算書送付条項に従って正確な計算書を作成していれば、支払うべき実施料を算定することは容易であったこと、平成七年一一月に前代表者が死亡したことによって取引の実態の把握が困難になるという事情があったとしても、正確な帳簿作成義務を怠っていた被告の責任であること、原告の催告は平成一〇年一一月のことであって、後記認定のように前代表者の死亡後の実施品の製造販売数だけからしても右催告が過大であったわけではないこと、被告は、第一回弁論準備手続期日における陳述は自白ではないというが、そうであるからといって被告が帳簿等の自己保有資料を調査することもなく、でたらめな数量を開示したとは考えにくいことに加え、前記基礎的事実4記載のように被告が原告側からの調査要請に応じず、誠実に交渉に応じてきたものとは認めがたいことからすれば、本件解除には何らその効力を妨げる事由はないというべきである。

二  争点2(被告製品の販売数量、実施料ないし相当損害金の額)について

1  被告の請求書(控)である乙一ないし三一には、被告製品の平成八年一月一五日締め分から平成九年二月二八日締め分までの販売個数(日理分と直販分)について以下のとおり記載されている。

(一) 日理分

【平成八年】 (販売) (返品) (差引)

一月一五日締め分 一八八個 三三個 一五五個

二月一五日締め分 二五個 〇個 二五個

三月一五日締め分 五四個 〇個 五四個

四月一五日締め分 七七個 三一個 四六個

五月一五日縮め分 一一六個 一個 一一五個

六月一五日締め分 四五個 〇個 四五個

七月一五日締め分 四七個 〇個 四七個

八月一五日締め分 五三個 一個 五二個

九月一五日締め分 一〇七個 〇個 一〇七個

一〇月一五日締め分 八五個 〇個 八五個

一一月一五日締め分 一一二個 〇個 一一二個

一二月一五月締め分 六〇個 〇個 六〇個

【平成九年】 (販売) (返品) (差引)

一月一五日締め分 三五個 五個 三〇個

二月一五日締め分 六〇個 〇個 六〇個

三月一五日締め分 七三個 〇個 七三個

(以上小計) 一一三七個 七一個 一〇六六個

(二) 直販分

【平成八年】 (販売) (返品) (差引)

一月締め分 四一個 二個 三九個

二月締め分 七八個 〇個 七八個

三月締め分 七一個 五二個 一九個

四月締め分 五〇個 〇個 五〇個

五月締め分 九〇個 一一個 七九個

六月締め分 一〇〇個 一四個 八六個

七月締め分 一〇一個 〇個 一〇一個

八月締め分 二五個 二個 二三個

九月締め分 五七個 〇個 五七個

一〇月締め分 五九個 〇個 五九個

一一月締め分 六五個 〇個 六五個

一二月締め分 八〇個 三個 七七個

【平成九年】 (販売) (返品) (差引)

一月締め分 二七個 〇個 二七個

二月締め分 六九個 〇個 六九個

三月締め分 四一個 〇個 四一個

(以上小計) 九五四個 八四個 八七〇個

2  しかし、被告は、日理(問屋)を介して業務用ヘアアイロンを販売しているところ(乙三四)、日理に対する平成四年四月一日から平成九年三月三一日までの被告からの業務用ヘアアイロンの購入数についての調査嘱託の結果によれば、日理の購入数は、平成六年度が七七五個、平成八年度が四五八〇個、平成九年度が六四三個となっている(合計五九九八個。平成四年、五年、七年は資料不明のため記入されていない。以下「日理回答分」という。)。右回答の商品コードと別紙(二)の被告製品の商品番号と商品名の一覧表を対比すると一致しないものが相当数あるが、被告は、右日理の回答書記載の商品が被告製品であることを特に争っていないから、右回答分はいずれも被告製品であると認める。

そうすると、前記1(一)の被告の請求書(控)に記載された個数は、平成八年分が九〇三個であつて、日理回答分の約五分の一に過ぎず、被告の請求書(控)の数値は全く信用できないというほかはない。被告は、日理と被告の会計年度の相違によるかのような主張をしているが、そのような理由で生じるレベルの差ではない。

3  また、被告が被告製品を韓国に輸出しており、右輸出分については本件契約に基づく実施料の支払をしていないことについては実質的に争いがないが、被告は、韓国輸出分については、廉価でなければ売れないこと、将来の販売のためには採算を度外視して販売する必要があることから、原告と被告(前代表者)との協議で、実施料を要しないものとされた旨主張するものの、これを裏付ける客観的な資料は全くない。

そして、被告は、韓国輸出分についてその実態を何ら明らかにしておらず、実際の販売数を把握することはできない。

4  当裁判所は、原告の文書提出命令の申立に基づき、被告に対し、平成四年四月一日から平成一〇年一一月二三日までの損益計算書、売上帳(売掛帳)及び仕入帳(買掛帳)の提出を命じ、被告は、損益計算書七部、売上帳・仕入帳・買掛帳・売掛帳各一冊を提出したが、原告は、これに基づく主張・立証をしていない。その事情は明らかではないが、前記請求書が信用に値しないことから、右各帳簿も立証に使えるほどの正確性を有しないからではないかと推測される。

5  右のような状況、すなわち、被告の会計帳簿が信用に値せず、販売数については、日理分については前記の年度に限れば販売数をほぼ正確に把握できるとしても、その他の年度については全く分からず、直販分及び韓国販売分については全く販売数を捕捉することができないこと、これらの原因は、被告前代表者の死亡という事情があるとはいっても、基本的に被告の責任に属することであることからすると、被告製品の販売数、ひいては実施料ないし損害金の額については、原告に立証責任があるものの、原告が主張するように、被告製品に使用される部品(セラミックヒータ)の購入数から、被告製品の製造販売数を推定することもやむを得ないことというほかはない。

被告は、納入されたセラミックヒータの全てが被告製品に使用されるわけではなく、かつ、不良品もあり、開発、試作、修理などに使用されるものも少なくない旨主張するところ、一般的にはそのようなこともあり得るところであり、かつ、修理については証拠(乙一ないし三一)上も相当数存在することが認められ、一定の程度で考慮すべきであるが、被告はその割合ないし数量を合理的に裏付ける資料を何ら提出しないから、最小限度の考慮しか受けられないとしても甘受すべきである。

なお、被告は、被告が中外商工から仕入れているのは、セラミックヒータ(ロッド)と、本件特許発明と無関係なセラミックの管である旨主張するが、中外商工に対する調査嘱託の結果(平成一〇年七月一六日及び同年九月一〇日回答)では、中外商工から被告への抵抗値三五オーム以上八五オーム以下の本件特許発明に使用されるセラミックヒータ(以下「本件セラミックヒータ」という。)のみが示されており(セラミックの管は含まれていない。)、これを基礎として算出する限り被告の主張は当たらない。

6  そこで、以下、中外商工から被告に対する本件セラミックヒータの販売数を基本としつつ、被告の主張する不良品、開発・試作・修理分等を考慮し、日理回答分も加味して、原告主張の各期を基準に、販売数量、実施料ないし相当損害金の額について検討する。

(一) 平成四年四月一日から平成九年三月三一日まで

(1) 中外商工に対する調査嘱託の結果(平成一〇年七月一六日回答)によれば、被告は、中外商工から以下のとおり本件セラミックヒータを購入している。

平成四年四月一日~平成五年三月三一日 一万二〇〇〇本

(右調査嘱託の結果では、一万三〇〇〇本となっているが、被告は、右期間分以外は全て認めながら、この期間分のみは一万二〇〇〇本の誤りであると強く主張し、再度の調査嘱託を求めており、右否認部分は右回答の総数五万七五六〇本に比して極めてわずかな数量であることからすれば、根拠のない否認であるとは考えにくいから、被告の主張数を採用する。)

平成五年四月一日~平成六年三月三一日 八〇〇〇本

平成六年四月一日~平成七年三月三一日 二万四〇六〇本

平成七年四月一日~平成八年三月三一日 一万一五〇〇本

平成八年四月一日~平成九年三月三一日 一〇〇〇本

(合計 五万六五六〇本)

(2) 本件セラミックヒータのうち、被告製品に使用された数量、不良品、開発・試作、修理に使用された数量、在庫数等はいずれも明らかでないが、前記1の請求書(控)に記載された返品数の比率(約七パーセント)、乙一ないし三一に記載された修理項目数、製品化される前の在庫数(乙三四から相当数あることが推定される。)からすると、少なく見積もっても被告製品に使用されていないものが三割程度は存在すると推定される。被告は、平成一〇年八月末現在で在庫が約五割、不良品が約一割あると主張しているが、その根拠を示しておらず、先に指摘した事情からしても右のような被告に不利な最低限度の推定をされてもやむをえないというべきである。

そうすると、右の五年間の被告製品の販売個数は三万九六〇〇個と推認される。したがって、その実施料は三一六八万円となる。これから、右の期間に被告から支払われた八三一万七六〇〇円(一万〇三九七個分)を差し引くと二三三六万二四〇〇円となる。

(3) 他方、被告が、平成七年一〇月二〇日にテゴー電子からセラミックヒータを一四三三個購入し、業務用ヘアアイロンを同数販売したことを認めるに足りる証拠はない(かえって、テゴー電子に対する調査嘱託の結果によれば、テゴー電子はセラミックヒータの製造販売をしていないことが認められる。)。

(二) 平成九年四月一日から平成一〇年一一月三〇日まで

平成九年四月一日以降、中外商工が被告に本件セラミックヒータを納入した証拠はなく、かつ、同年一月から三月末までの納入数も一〇〇〇本と少ないことからすれば、在庫品を使用して被告製品を製造していた可能性は否定できず、現に被告は、右期間に被告製品を一九五四個販売したとして一五六万三二〇〇円の支払をしているが、それ以上製造販売したと見るべき確実な証拠もなく、在庫品の数量も明らかでない以上、被告が右数量以上を製造販売したと認めることは困難である。

(三) 平成一〇年一二月一日から平成一一年一一月三〇日まで

右期間についても前同様であり、被告が自ら支払をした以上の被告製品の製造販売の事実を認めることはできない。

三  結論

よって、原告の請求は、主文一ないし三項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとする。

(口頭弁論終結の日 平成一二年三月二七日)

(裁判官 本吉弘行 裁判官 鈴木紀子 裁判長裁判官井垣敏生は転補のため署名押印することができない。 裁判官 本吉弘行)

別紙(一)

被告の製品

一、左記回路図から構成された温度コントローラを含むヘア・アイロン(L型S型があり、S型は左記R14が存在しない)。

<省略>

別紙(二)

<省略>

日本国特許庁(JP) 特許出願公告

特許公報(B2) 平2―54574

Int.Cl.5  識別記号 庁内整理番号 公告 平成2年(1990)11月22日

G 05 D 23/24 E 8835―5H

M 8835―5H

発明の数1(全5頁)

発明の名称 ヒータ駆動制御装置

特願 昭56―200651 公開 昭58―101308

出願 昭56(1981)12月11日 昭58(1983)6月16日

発明者 杉森英夫 京都府相楽郡精華町祝園下久保田12―2

出願人 杉森英夫 京都府相楽郡精華町祝園下久保田12―2

代理人 弁理士 西田新

審査官 池田敏行

参考文献 実開 昭53―123396(JP、U)

特許請求の範囲

1 ヒータと制御端子付スイツチング素子の直列回路を交流電源端子に接続し、温度センサの測定信号により上記制御端子付スイツチング素子をオン・オフ制御する装置において、上記ヒータに接続されている交流電源端子がコモン端子となる極性の制御回路用直流電源回路と上記交流電源端子間電圧のゼロクロス時を検出してパルス状ゼロクロス信号を出力するゼロクロス信号発生回路と、そのゼロクロス信号発生時のみ上記ヒータへ測定用電流を供給する測定電流供給回路と、その測定電流供給時における上記ヒータの端子電圧とあらかじめ設定された基準電圧を比較しその大小関係に応じて上記制御端子付スイツチング素子をオン・オフ制御する点弧制御回路をそれぞれ設け、記ヒータが温度センサと兼用するよう構成されたことを特徴とするヒータ駆動制御装置。

2 上記制御端子付スイツチング素子が両方向サイリスタである、特許請求の範囲第1項記載のヒータ駆動制御装置。

発明の詳細な説明

本発明はヒータ駆動制御装置に関し、更に詳述すると、交流電源によりヒータを温度制御しながら駆動する装置に関する。

ヒータの駆動制御方式として、従来からの位相制御、オンオフ制御の欠点、すなわちラジオ周波数障害問題および電源系統に与える諸問題を克服する一手段として、最近、ゼロクロス・スイツチ方式が普及しつつあり、ゼロクロス・スイツチの制御用ICが市販されている。これを用いてヒータ等の負荷を制御する回路構成の一例を第1図に示す。すなわち、交流入力端子1A、1B間に両方向性サイリスタ2と負荷3を直列接続するとともに、交流入力をゼロクロス・スイツチの制御用IC4に導入してゼロクロス時にサイリスタ2を点弧しうるよう構成し、一方、サーミスタ等の温度センサ5の端子電圧を制御用IC4に入力し、センサ5により測定温度が設定値よりも低くなつたときにサイリスタ2を点弧してヒータ3をするものである。

ところが、このような従来例によれば、制御ユニツトと加熱部が離れている場合、加熱部にヒータ駆動用リード線2本と測温用リード線2本の計4本のリードを接続する必要がある。従つて、例えば、電気毛布、電気コタツ等の可動負荷の場合は、特にリード線が屈曲されるので、断線またはシヨートの可能があり、そして断線またはシヨートがセンサのリード線で生じたときはヒータ駆動が暴走状態になるおそれがあつて大層危検である。

また、他の従来装置として、ヒータと温度センサを兼用させ、交流電源の正の半サイクルでは温度測定のみを用い、測定の結果、設定温度よりも低ければ次の負の半サイクルでヒータの駆動を行う方式の製品が知られている。しかし、このような制御方式によれば、半波のみ電力を使用するため大電力の制御には不適当であり、また、通常ヒータのインピーダンスは例えば10Ω程度と低く、これを温度センサに兼用するには、測定用の大電流を流してやるか、測定電圧を高感度・高精度の増幅器で増幅してやる必要があるから簡素化、小形化が難しい。

さらに、一般にサイリスタのゲートには所定の点弧電流を与える必要があるため、従来は、第1図の従来例にも示すように、サイリスタのカソードを交流電源と直流電源のコモン電源線側に接続してゲート電位を直流電源電圧範囲内で制御できるように接続していた。その為にコモン電源線にヒータ及びセンサを接続することができなかつた。しかし、本発明のように、ヒータと温度センサを兼用させ或いはヒータと温度センサの共通端子を設けて3端子にする場合には、ヒータを必ずコモン電源線側に接続しなければならなくなり、サイリスタの点弧をいかにして安定に行うかという新たな課題が発生する。

本発明の目的はヒータを温度センサに兼用させることにより、交流電源に接続する入力測2端子と、ヒータに接続する出力側2端子を持つ4端子回路網により構成されるヒータ駆動制御装置を提供することにある。

以下、本発明の実施例を図面に基いて説明する。第2図に本発明の構成の概要をブロツク図により示す。

ヒータ11は温度センサとしての特性を兼ね備えており、両方向性サイリスタ12と直列接続の上、交流電源端子1A、1Bに接続されている。ゼロクロス信号発生器13は交流電源端子1A、1B間の電圧が所定値以下に低下した時に、第3図B図に示すように時間幅Tcの出力を発生する。測定電流供給部14はゼロクロス信号が発生している間にヒータ11へ測定電流を通電する。このときの電流値は通電時間が短時間のため、比較的小型の電流供給回路でも大電流を供給することができ、その結果、ヒータ11の抵抗値が小さいときでも比較的大きな測定電圧を得ることができる。測定温度検出部15は測定電流通電時のヒータ両端の電圧からヒータの抵抗値、ひいてはヒータの温度を検出する回路部である。比較器16は、電圧設定部17によりコモン線を基準として予め設定された電圧ESに対する温度検出部15の出力信号電圧EMの大小を比較し、EM<ESのとき第3図にC図で示すように出力パルスを発する。ANDゲート18はゼロクロス信号発生時にEM<ESになつたことを検出する。微分回路19はANDゲート18が閉じたことを検出する。点弧回路20はサイリスタ12を導通させるためのパルスを発生するもので、第3図D図に示すようにゼロクロス時の経過直後の交流電源電圧が充分低いときに点弧用パルスを発生する。直流電源回線21は、例えばダイオードとコンデンサから構成され、コモン電源線COMに対して正の直圧+Vを上記各回路へ供給する。

このような構成において、交流電源端子の一方1Aは第3図Aに示すように正弦波電圧となつて変動するが、ゼロクロス時には交流電源端子間の電圧は零になる。これに対し、直流電源電圧+Vは常にコモン電源線COMに対し一定電圧を維持している。この直流電源により温度測定及びその測定結果に基づくサイリスタの点弧制御が行われる。ヒータ11の温度が設定部17の設定値よりも低いときは、第3図C図に示した通り、ゼロクロス信号発生期間中、比較器16がパルス信号を出力し、これにより点弧回路20が点弧用パルス信号を出力してサイリスタが導通し、第3図E図に示すように、交流電源波形と実質的に変らない両波正弦波形の電力がヒータ駆動用として供給される。

第4図に本発明の具体的実施例を示す。交流源端子1A、1Bに、両方向サイリスタ12とヒータ11の直列回路が接続され、ダイオードD1とコンデンサC1により制御回路用直流電源が作られる。交流電源端子1Bとヒータ11の他端11Bを結ぶ線COMがコモンラインになつている。トランジスタQ1はゼロクロス信号発生器13がゼロクロス信号を発生している間導通して、そのコレクタB点はHiレベルになる。抵抗R4はヒータ11に測定用電流を供給する。この測定用電流はB点がHiレベルになるゼロクロス信号時発生時に限り供給される。抵抗R4とヒータ11の接続点F点から抵抗R6を介してコンパレータμ2の反転入力端子に温度測定信号が入力される。すなわち、ヒータ11の温度が低下するとその電気抵抗値も減少し、従つてF点の電位が低下する。また、B点とコモンラインを抵抗R2、R3及び可変抵抗器VR1により分割して、G点の電位を設定電圧としてコンパレータμ2の非反転入力端子に入力している。この実施例によれば、コンパレータμ2の反転入力、非反転入力とも共通の電位B点に基いてブリツジ回路を構成しているため、電源電圧、ゼロクロス出力等の影響が相殺されて高感度の測温を行うことができる。一方、コンパレータμ1の非反転入力にはB点が接続されているから、ロクロス信号発生時にコンパレータμ1はHiレとなる。オープンコレクタのコンパレータμ1、μ2の出力と共通の負荷抵抗R7がワイヤードNOR論理を構成し、ゼロクロス期間μ1はカツトオフし、ヒータのセンス電圧が設定電圧よりも低い場合、ゼロクロス信号期間にμ2がHiとなり、ゼロクロス信号が終るとμ1はオンになつてワイヤードゲートはLowになる。抵抗RとコンデンサC2が微分回路19を構成している。微分回路19の出力はコンパレータμ3に入力し第3図Dのようなワンシヨツトパルスを発生して、トランジスタQ2を駆動し、ダイオードD2を介してサイリスタ12のゲートを点弧する。トランジスタQ2は耐圧(VCBO)が交流入力電圧(VRMS)のピーク電圧に耐えられるよう実効値電圧の2.8倍以上の耐圧のものを選定し、負の半サイクル時、即ち端子1Aが負側のピーク電圧になつた時にトランジスタVCE間にかかる最大電圧時に耐えるようにする。即ち、従来サイリスタはカソードをCOM側に接続していたが、本発明の場合は変動側にカソードを接続しているために、負の半サイクル時に

サイリスタ12のゲート及びダイオードD2を通してトランジスタQ2のコレクタに負の電圧が加わるため、このピーク電圧時に耐えるようにする。又、正の半サイクル時にトランジスタQ2のコレクタに逆電圧がかからないようにダイオードD2で防止している。従つて、ダイオードD2は前述のトランジスタQ2の耐圧を下げるために整流回路電圧を直列抵抗等で下げている場合に有効である。なお、抵抗R及びR10はコンパレータμ1及びμ3にバイアス電圧を与えるための分圧抵抗、抵抗R11はトランジスタQ2のベース電流規制用の抵抗である。

本発明のヒータ11は、第5図に示すように、本来のヒータ110と、温度センサ111に分けて構成し、3端子のものとすることができる。この場合は、温度センサ111の抵抗値をヒータ111のそれよりも高く設定することができるが、ゼロクロス信号期間中のみ測定用電流を流すので、従来方式の温度センサに比べ、自己発熱による誤差を少く抑えることができる。なお、ヒータ駆動制御回路部は第4図のものと全く同様に構成できるので説明を省略する。

本発明の両方向性スイツチング回路は制御用電源を正としているが、負の電源として負トリガー方式とすることができるほか、第6図に示すの単方向性サイリスタを正負両方向に通電しうように並列接続して実施することもできる。

即ち、第5図にて、第4図の両方向性サイリスタ12の代りに単方向性サイリスタ120及び121を互いにアノードとカソードを逆に並列接続して、又、ダイオードD2の代りにアノード側を互いに接続した2本のダイオードD20、D21でそれぞれのサイリスタ120、121のゲートに接続する。こうすることにより交流電圧が端子1Bに対し端子1Aがゼロクロス時以降、端子1Aが負の半サイクルが始まる場合にはトリガー電流はサイリスタ120のゲート電位が低下するのでダイオードD20を通つてサイリスタ120のゲートに流れ、又、逆に正の半サイクルの始まる場合にはサイリスタ120のゲートは正バイヤスされるのでトリガー電流はダイオードD21を通つてサイリスタ121のゲートに流れて、両方向性スイツチングの働きをする。

なお、本発明における温度測定は、交流電源の半サイクルごとにこれを行うほか、複数サイクルごと、或いは所定時間ごとに行つてもよい。

また、上記実施例における微分回路19は不可欠の構成要件でなく、要するに両方向性スイツチング素子の点弧信号が厳密なゼロクロス点経過後に発生すればよく、遅延素子、或いは積分回路等の手段によつても実施することができる。

本発明によれば、交流電源に接続する2端子1A、1Bと温度センサを兼ねたヒータに接続する2端子11A、11Bを持つ4端子回路網を構成しているので、例えば半田ごてや、ヘアアイロンなどに使用する場合、ハンドル部分に本発明の制御装置を内蔵させ、その先端部にヒータを接続し、その根本部に電源コードを接続すればよいので、回路ブロツク構成がきわめて簡素化される。また、ヒータと温度センサを兼用しているので、どちらか一方のみが断線または接続不良を起こすことがなく、制御の暴走の危険性がなく非常に安全な制御が得られる。

さらに、ゼロクロス期間の非常に短い時間だけ温度測定用電流を流すので、測定用の消費電力が極度に低減化されて制御回路およびその電源回路からの発熱量がきわめて少なくなり、小型化が達成されると同時に従来困難であつた発熱と放熱問題が解消した。

またさらに、測定用パルス電流のデユーテイ比が小さいので、ヒータ兼用の温度センサの抵抗値が小さい場合でも瞬間的に大電流を流して高感度の測定を行うことができる。

このことを数値例で示せば、ヒータの電気抵抗は例えば10Ωと、温度センサの抵抗値が通常1kΩであるからこれに比べて1/100程度低いが、これに対し100mAの測定電流を用いれば1vもの大きな出力電圧を得ることができ特に増幅することなく比較器等に入力することができる。しかも、測定電流が100mAであつても、ゼロクロス信号の時間幅が100μSときわめて短く、この間しか測定電流が流れないので、この測定時間は商用交流電源の半周期、例えば50Hzのとき10mSに対して1/100の通電時間比であり、平均電流に換算すれば僅か1mAの測量電流しか消費していないことになる。

図面の簡単な説明

第1図は従来例を示す回路図、第2図は本発明実施例を示す回路ブロツク図、第3図は第2図の作用を説明する波形図、第4図は第2図の実施例の具体的回路図、第5図は本発明の他の実施要部を示す回路図である。

1A、1B…交流電源端子、11…温度センサを兼ねたヒータ、12…両方向サイリスタ、13…ゼロクロス信号発生器、14…測定電流供給部、15…測定温度検出部、16…比較器、17…電圧設定部、18…ADNゲート、19…微分回路、20…点弧回路、21…直流電源回路、120、121…単方向性サイリスタ。

第1図

第2図

第3図

第4図

第5図

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日本国特許庁(JP) 特許出願公告

特許公報(B2) 昭63―5691

Int.Cl.4  識別記号 庁内整理番号 公告 昭和63年(1988)2月4日

G 01 K 7/20 Z―7269―2F

発明の数1(全6頁)

発明の名称 抵抗温度計

特願 昭57―93306 公開 昭58―210530

出願 昭57(1982)5月31日 昭58(1983)12月7日

発明者 杉森英夫 京都府相楽郡精華町祝園下久保田12―2

出願人 杉森英夫 京都府相楽郡精華町祝園下久保田12―2

代理人 弁理士 西田新

審査官 渡部利行

特許請求の範囲

1 基準抵抗値R0に対し正の誤差NR0をもつ測温抵抗体と補正用抵抗の一端を共通接続してコモン端子とし、上記測温抵抗体の他端に通電用及び測定用の端子を設け、上記補正用抵抗の他端に補正用端子を設けてなる温度センサを用い、上記補正用抵抗と直列接続した測定用抵抗の他端を上記測定用端子と同電位になるよう接続し、上記測定用抵抗の値R1に対し上記補正用抵抗の値がNR1となるようにあらかじめ調節しておき、上記測定用抵抗の両端の電圧を測定することにより上記基準抵抗値R0の両端の電圧と等価な電圧を測定しうるように構成された抵抗温度計。

発明の詳細な説明

本発明は抵抗温度計に関する。

般に、抵抗温度計の測温抵抗体として、抵抗値精度が高く、抵抗温度係数のばらつきが小さく、経年変化の小さいものが要求され、これらの諸特性を満足するものとして通常は白金抵抗体が用いられている。しかし、白金抵抗体は抵抗値を例えば100Ω±0.1%と所定の許容範囲内に設定するのに手間がかかり、生産性が低く、高価であり、しかも破壊し易いなどの欠点がある。

抵抗温度計において抵抗値精度は、壊れ易いセンサの互換性を良くするためにも極めて重要である。それは、抵抗体の温度係数はほぼ絶対温度に比例するから係数値が小さく、従つてある温度における精度に対応する温度範囲が、例えば白金抵抗温度計の場合±1%が±2.5℃に対応するように、拡大されるからである。

本発明の主たる目的は、生産性が高く従つて安価に製作することができ、抵抗温度係数のばらつきが小さく、経年変化が小さく、精度が安定な抵抗温度計を提供することにある。

本発明の他の目的は、例えば公称100Ωの測温抵抗体の抵抗値が、例えば0℃において115.26Ωというような大きな誤差を含んでいる場合であつても高精度の測定ができる抵抗温度計を提供することにある。

本発明のさらに他の目的は、1台の測定器本体に対し複数個の温度センサを取替える場合、各温度センサの測温抵抗体の抵抗値が多少ばらついていても、完全な互換性をもつて取替え使用することができる抵抗温度計を提供することにある。

まず、本発明の原理を、第1図により説明する。温度センサ1は測温抵抗体2と、半固定可変抵抗器からなる補正用抵抗3と、測温抵抗体2と補正用抵抗3の一端を共通接続したコモン端子4、測温抵抗体1の他端に設けられた通電用端子5と測定用端子6、並びに補正用抵抗3の他端に設けられた補正用端子7を備えている。測定器本体8は上記各端子4、5、6、7に対応する端子4’、5’、6’、7’を備え、互に対応する端子同士がリード線で接続され、端子4’、5’間には測定電流を供給するための定電流源9が接続され、端子6’、7’間には測定用抵抗10が接続されている。

測温抵抗体1は基準抵抗値R0に対し正の誤差NR0をもつている。例えば0℃における抵抗値が115.26ΩであればR0=100.00Ω、N=0.1526である。測定用抵抗10は抵抗値が安定しておればいかなる抵抗値であつてもよいが、通常は基準抵抗値R0に対し10~1000倍程度の特定の抵抗値のものが用いられる。補正用抵抗3はNR1となるようあらかじめ調節される。

定電流源9から測定電流Iを供給すれば抵抗2の両端に電圧が生じ、この電圧が温度により変化するから、電圧を測定することにより温度を測定することができる。本発明においてはこの電圧が測定用抵抗10と補正用抵抗3により分圧され測定用抵抗10の両端の電圧を測定電圧としている。いま、0℃において測定用抵抗10の両端の電圧をE(0)とすれば

となり、基準抵抗値R0の両端の電圧を測定したことと等価になる。

温度T℃における測定値は、測温抵抗体1の温度係数をαとすれば、測温抵抗体1のT℃における抵抗値R(T)が

R(T)=R0(1+N)(1+αT)

=R0(1+αT)+R0N(1+αT) ……(1)

となる。(1)式の第1項R0(1+αT)は基準抵抗の値であつてこれが測定用抵抗10に対応し、第2項R0N(1+αT)は誤差分の値であつてこれが補正用抵抗3に対応する。

なお、コモン端子4、4’間のリード線の抵抗を考えると、測定用電流のための端子4には、測定器本体のコモンに対しいくらかの電位が生ずることになるが、補正用抵抗3をこの現象を含めて調整することができるので、コモン端子として共通接続してあつても測定誤差を生ずることがない。

第2図に本発明の実施例の回路図を示す。

図において第1図と同一部分については同一参照番号を付して説明を省略する。第一の測定用端子6に接続される端子6’の電位は増幅度1の演算増幅器12によつてインピーダンス変換され、出力端13を端子6’と同電位にしている。この出力端13と、補正用端子7に接続される端子7’の間に、測定用抵抗10が接続される。補正用端子7に接続される端子7’の電位は増幅度1の演算増幅器14でインピーダンス変換され、その出力端15を端子7’と同電位にしている。この二つの端子13及び15を、減算増幅器を構成する演算増幅器16の入力抵抗17、18にそれぞれ接続し、端子13、15間の電位差を減算増幅器の出力端19に得ている。

なお、測定用抵抗10、端子7’、7及び補正用抵抗3に流れる電流iは、測温用電流Iに比べて1/100~1/1000と格段に小さく選ぶことができ、従つて測定用抵抗10の値を測温抵抗体2の抵抗値に対し格段に高いものに選定することができる。この場合、センサの互換性を考えれば用抵抗10に例えば12KΩ±0.05%のような精度の高いものを使用することが好ましい。

次に測温抵抗体2の好ましい実施例について説明する。

未焼成のセラミツク基板上に、タングステンを所定パターンにプリントして抵抗体を形成し、この抵抗体を未焼成のセラミツクで被覆したのち焼成する。このようにして得られた抵抗体は外気と遮断されているのに高温度の雰囲気中にあつても酸化、変質せず経年変化がない。また、高純度のタングステンを用いるときは温度係数の均一なものが得られる。外形形状は、プレート形、ロツド形、チユーブ形など種々なものが得られる。第3図に、ロツド形の製造過程を図示する。

第4図に本発明の他の実施例の回路図を示す。この実施例は可変抵抗器VRにより設定さ値を基準にしてヒータ電源装置(図示せず)に対しオンオフ制御信号を出力するものであつて、測温抵抗体2に値にばらつきがある場合でも可変抵抗器VRの上限と下限が所望の温度設定値と一致し、従つて、目盛と実際の設定値を合わせるための何らの調整作業も必要としない長所がある。

測定用抵抗20と補正用抵抗3の直列回路が測温用抵抗体2と並列に接続され、測定端子に係る端子6’から抵抗21を通して定電圧源22に接続されている。測定用抵抗20と補正用抵抗3は測温用抵抗体2に比べて格段に抵抗値が大きいので電源電圧Eは近似的に抵抗21と測温用抵抗体2により分圧され、その分圧電圧eMをコンパレータ27の非反転の力にしている。補正端子に係る端子7’の電位は、増幅度1の演算増幅器23によりインピーダンス変換され、その出力端24の電位は端子7’と同電位にある。定電圧電源端子22と出力端24の間に、抵抗25、26及び可変抵抗器VRを直列接続し、抵抗25と26の接続点の電圧eSをコンパレータ27の反転入力に入力している。

このような構成において、設定電圧eSに対し測定電圧eMが高いときはコンパレータ27の出力がL0になり、それと反対に設定電圧eSよりも測定電圧eMが低ければコンパレータ27の出力がHiになる。

の実施例によれば、測温用抵抗体2が基準抵抗値R0に対し、いかにばらついていても、測定用抵抗20の両端の電圧は前述した(1)式の第1項R0(1+αT)に対応しているので、抵抗21、25、26及び可変抵抗器VRの値をそれぞれR21、R25、R26、RVとすると、

……(2)

の関係式が成立し、測温範囲と可変抵抗器VRの抵抗範囲が定まると、各抵抗器の値が一義的に定めることができる。

次に、温度測定範囲が高範囲であつて、温度係数を二次の項まで簡単に補正する実施例を説明する。

白金、タングステン、プラチナ等の純金属による抵抗体の温度特性は厳格には二次項βT2を含み、一般的に、

R=R0(1+αT+βT2) ……(3)

となる。この二次項を補償して線形の温度特性を持たせるため、温度センサになる抵抗体に通常のを並列接続することが知られている。この場合、温度センサになる抵抗体の値が定まれば最も良好な線形温度特性を得るための並列接続抵抗の値も一義的に定まる。本発明において、測定用抵抗R1の値はいかなる値にも選定し得るがβT2の補償に適した値を選ぶこともできる。

第5図に、第2図の実施例にβT2項の補償を施こした実施例を示す。補償用抵抗30は、端子6’と7’の間に接続される。この場合、測定用抵抗R1の値は抵抗10aと抵抗30の並列抵抗値で与えられる。

第6図に、βT2項の補償を施こした他の実施例を示す。減算器31を構成する演算増幅器16の帰還抵抗32と並列に抵抗33とスイツチ35、及び抵抗34とスイツチ36を付加接続し、このスイツチ35及び36を測定温度範囲に応じて選択的にオンオフ制御するよう構成している。スイツチの切換温度及び抵抗値を適当に選ぶことにより、(3)式に示す曲線を折線により近似することができる。

本発明によれば、測温抵抗体の抵抗値に可成りの誤差が含まれていても補正用抵抗によりこれを完全に補正することができるので、高精度の温度測定を行うことができる。従つて、量産性が高く低価格の抵抗温度計を得ることができる。しかも、測温抵抗体の抵抗値の誤差にばらつきがある場合でも、これらを測定器本体に対し完全な互換性をもつて接続使用することができる。

また、実施例として述べたように、タングステンを抵抗体とし、これをセラミツクで封じたセラミツクセンサを用いる場合は、従来の白金センサに比べて格段に安価で、温度係数、経年変化が白金センサ同様にすぐれ、しかもきわめて堅牢で信頼性の高い抵抗温度計を得ることができる。

図面の簡単な説明

第1図は本発明の原理を説明する回路図でる。第2図は本発明の実施例を示す回路図である。第3図は本発明の測温抵抗体2の製造方法の説明図である。第4図は本発明の他の実施例を示す回路図である。第5図及び第6図は本発明のさらに他の実施例を示す回路図である。

1……温度センサ、2……測温抵抗体、3……補正用抵抗、4……コモン端子、5……通電用端子、6……第一の測定用端子、7……第二の測定用端子、10……測定用抵抗。

第1図

第3図

第2図

第4図

第5図

第6図

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日本国特許庁(JP) 特許出願公告

特許公報(B2) 昭63―66032

Int.Cl.4  識別記号 庁内整理番号 公告 昭和63年(1988)12月19日

H 05 B 3/00 J―8715―3K

発明の数1(全5頁)

発明の名称 ヒータ駆動制御装置

特願 昭58―120002 公開 昭60―12689

出願 昭58(1983)6月30日 昭60(1985)1月23日

発明者 杉森英夫 京都府相楽郡精華町大字祝園小字下久保田12―2

出願人 杉森英夫 京都府相楽郡精華町大字祝園小字下久保田12―2

代理人 弁理士 西田新

審査官 本多弘徳

特許請求の範囲

1 抵抗温度センサを兼ねるヒータとトライアツクの直列回路を交流電源端子に接続し、その交流電源ラインのヒータ側をコモンラインとして直流電源を設け、上記交流電源のゼロクロス時に導通するスイツチングトランジスタのエミツタを上記直流電源の非コモンラインに接続するとともに、そのトランジスタのコレクタから抵抗を通して上記トランジスタがスイツチした時に2個のダイオードの両方に電流が流れる方向に接続し、そのうちの1個のダイオードの他方を上記ヒータと上記トライアツクの接続点に接続するとともに、もう1個のダイオードの他方と上記コモンラインの間に負荷インピーダンスを接続し、その負荷インピーダンスとダイオードの接続点から温度検知信号を取り出し、この温度検知信号値と設定値の大小により上記トライアツクをオンオフ制御するよう構成したことを特徴とするヒータ駆動制御装置。

2 上記スイツチングトランジスタのコレクタからダイオードを通して可変分圧回路を上記コモンラインの間に設け、その分圧点から温度検知用基準電圧を得るように構成した特許請求の範囲第1項記載のヒータ駆動制御装置。

発明の詳細な説明

本発明は、電気抵抗による温度検知装置に関し、更に詳述するとヒータを抵抗温度センサと兼用させ、交流電源のゼロクロス直後にヒータ温度を測定し、その測定結果に従い次の半サイクル期間のヒータ駆動をオンオフ制御する装置に関する。

一般に、ヒータ駆動用電源として商用交流電源が用いられるから、ヒータを温度検知用センサに兼用する場合、センサの出力電圧を処理する回路に交流電圧が直接印加されるのを防止するため、阻止用ダイオードを用いなければならない。この場合、阻止用ダイオードの順方向電圧降下は約0.6Vと非常に小さいが、それでも測定精度を高めようとすれば、このわずかなダイオードの順方向電圧降下が問題になる。

本発明の目的は、構成部品点数を可及的に少くし、且つ、測温に消費される電力損失を可及的に少くしながら、測温精度が非常に高く、従つータ温度が設定値に正確に制御されるヒータ駆動制御装置を提供することにある。

本発明のヒータ駆動制御装置は、抵抗温度センサを兼ねるヒータとトライアツクの直列回路を交流電源端子に接続し、その交流電源ラインのヒータ側をコモンラインとして直流電源を設け、上記交流電源のゼロクロス時に導通するスイツチングトランジスタのエミツタを上記直流電源の非コモン側ラインに接続するとともに、そのトランジスタのコレクタから抵抗を通してトランジスタがスイツチした時に2個のダイオードの両方に電流が流れる方向に接続し、そのうちの1個のダイオードの他方を上記ヒータと上記トライアツクの接続点に接続するとともに、もう1個のダイオードの他方と上記コモンラインの間に負荷インピーダンスを接続し、その負荷インピーダンスとダイオードの接続点から温度検知信号を取り出し、この温度検知信号値と設定値の大小関係により上記トライアツクをオンオフ制御するよう構成したことを特徴とする。

次に本発明の実施例を図面に基いて説明する。

第1図に本発明実施例の回路図を示す。

センサを兼ねるヒータ1とトライアツク2の直列回路を交流電源端子3A、3Bに接続し、この交流電源を安定化直流に変換する直流電源回路4の正極側をヒータ側の交流電源端子3Aと接続してコモンライン5とし、直流電源の負極側を非コモンライン6とする。

直流電源により作動し交流電源のゼロクロス時を検出するゼロクロス検出回路7を設け、このゼロクロス検出信号により導通するスイツチングトランジスタ8のエミツタを直流電源の非コモンライン6に接続するとともに、そのトランジスタ8のコレクタから抵抗9を通して2個のダイオード10、11の各カソードを共通接続し、一方のダイオード10のアノードをヒータ1とトライアツク2の接続点Hに接続するとともに、もう1個のダイオード11のアノードとコモンライン5の間に負荷インピーダンス12を接続し、その負荷インピーダンス12とダイオード11の接続点Fから温度測定信号emをとり出す。一方、トランジスタ8のコレクタとコモンライン5の間にダイオード13、抵抗14及び15を直列接続し、その接談点E点から制御の設定電圧esを取り出している。コンパレータ16は、設定電圧esに対する測定信号emの大小関係を判別する。コンパレータ16の出力線Gはダイオード17を介してトライアツク2の制御ゲートに接続されている。この回路構成から明らかなようにダイオード11、13および抵抗9、12、14、15が測定値と基準値を比較するための第一のブリツチ回路を形成し、ヒータ1、ダイオード10、11および抵抗12がヒータ1の端子Hの電位を測定点Fへ写すための第二のブリツジ回路を形成している。なお、抵抗12の値はヒータ1の抵抗値よりも充分に高い値に選ばれる。

次に作用を説明する。第2図は第1図の各部の電圧波形を示し、(Ⅰ)は測定温度が設定温度よりも高いとき、(Ⅱ)は測定温度が設定温度よりも低いときを示している。各波形A~Hは第1図のA~Hの各点と対応している。

交流電源波形はA図に示すように正弦波形であり、コモンラインに対しA点の電位が同電位になつたときゼロクロス信号がB図に示すように出力される。このゼロクロス信号によりトランジスタ8が一瞬だけ導通し、第一及び第二のブリツジ回路に測定用電流が供給される。交流電源電圧のゼロクロスにより、いかなるときもトライアツク2はオフになる。

第1のブリツジ回路の一辺の接続点E点から基準電位esが得られる。この基準電位esは可変15により調節することができる。

第2のブリツジ回路について、ヒータ電流i1によるダイオード10の順方電圧降下分と、負荷インピーダンス12の電流i2によるダイオード11の順方向電圧降下分とが等しくなるように設計しておくと、F点の電位はH点の電位に等しくなる。例えばi1=10i2の場合、同一特性のダイオードを用いてダイオード10を1個でダイオード11を10個の並列接続で構成するか、或いは、大容量のダイオード10を1個で、小容量のダイオード11を複数個の並列接続で構成するなどして実現することができる。

第1のブリツジ回路の測定値検出用の一辺において、抵抗9に流れる電流は(i1+i2)の合成したものであるが、i1≫i2の場合はヒータ1の抵抗変化によるものが、その殆どを占めることになり、ヒータ1の抵抗変化分が殆どそのままF点変化分となる。

このようにして得られた測定値emと前述の基準値esをコンパレータ16が比較する。測定温度の方が基準温度よりも高いときは(Ⅰ)に示すようにトライアツクに対しトリガーパルスが印加されず、トライアツクは次の半サイクル間オフ状態を維持する。反対に測定温度の方が基準温度よりも低くなればトライアツクに対しゼロクロス期間後にトリガーパルスが印加され、トライアツクは次の半サイクル間オン状態になる。

トライアツク2がオンのときであつて非コモンラインA点がコモモラインよりも高い正の半サイクルⅡaのときは、D図に示すようにD点に交流電圧が現れるがダイオード11がこの交流電圧を阻止し、これと反対の負の半サイクルⅡbのときは、ダイオード10が交流電圧を阻止する。その結果、非測定時においてはヒータ1に通電中であつてもコンパレータ16の測定値入力端子F点に高圧の交流電圧が印加されることがない。また、正の半サイクルのとき、C図に示すように、C点にも交流電圧が現れるが、ダイオード13がこの交流電圧を阻止するので、コンパレータ16の基準値入力端子E点に高圧の交流電圧が印加されることもない。なお、トランジスタ8はコレクタ耐圧の高いものが選ばれるから、正の半サイクルに耐えることができる。

第3図に本発明によりゼロクロスごとに測定された測定値emを定常的に温度表示する表示装置の実施例を示す。演算増幅器A1より成る回路21はインピーダンス変換回路である。演算増幅器A2より成る回路22は加算器であつて、その出力em2は入力をem1及びEREFとするとき、

となる。演算増幅器A3より成る回路23は直流電圧Eから正電位の基準電圧EREFを得る回路である。FET24のゲート電極にはゼロクロス信号が印加され、このトランジスタ24はゼロクロスごとに導通する。サンプルホールド回路25は加算器の出力em2を保持しゼロクロスごとにその値を更新する。A/D変換器26はサンプルホールド回路25の出力電圧をEREFを基準電圧としてデジタル変換する。表示装置27はその値を可視表示する。

加算器22に関する上式において、電圧emは負の値であるため、上式のカツコ内は減算処理となり、ヒータの温度が0℃のとき出力電圧が0Vとなるように抵抗R3を選定し、温度に比例した出力電圧が得られるように抵抗R1を選定することができる。このようにして0℃のとき出力が0Vとなり温度上昇に比例した正の電圧em2を得、これを表示させることができる。

本発明によれば、次の諸効果がある。

<1> 抵抗温度センサとヒータを兼用しているのでセンサと、ヒータのリード線が合計2本で済み、ヘアーアイロン、電気毛布等のようにヒータ温度が制御対象である場合に適用して特に効果が大きい。

<2> ヒータへ流す温度検出用電流の通電時間はゼロクロス時の極短時間であるから、これにパルス的大電流を流すことが容易になり、ヒータ抵抗値が小さい場合であつても大きな検出電圧が得られ、増幅回路が不要となり、それだけ出回路構成が簡略化される。

<3> 非測温時におけるヒータにかかる交流電圧がダイオードにより阻止されているのでコンパレータ等の制御回路に何の障害も生じない。

<4> 第二のブリツジ回路を形成する2個のダイオード10、11による電圧降下分が相殺されて測定信号検出点Fにはヒータ端子H点と相等しい電圧が現れ、測温清度が向上する。

<5> 第二のブリツジ回路を形成する負荷インピーダンス12の値をヒータ抵抗値も充分大きく選定しておけば、測温時におけるヒータ抵抗の変化による電圧変化分が殆どそのまま測定信号検出点Fの電圧変化となり測温感度が向上する。

図面の簡単な説明

第1図は本発明実施例の回路図、第2図はその各部の電圧波形を示す作用説明図、第3図は発明に関連する表示装置の実施例を示す回路図である。

1……センサを兼ねるヒータ、2……トライアツク、3A、3B……交流電源端子、4……直流電源回路、7……ゼロクロス検出回路、8……スイツチングトランジスタ、9……抵抗、10、11……ダイオード、16……コンパレータ。

第1図

第2図

第3図

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